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ベンチャー企業とベンチャー法務

日本がベンチャー後進国、起業後進国と呼ばれて久しいですが、経済産業省が旗振り役となり「スタートアップ支援策」を打ち出すなどして、令和の日本はにわかにベンチャー・スタートアップ界隈が活気づいてきています。

とはいえ、「さぁ起業するぞ!」と意気込んだはいいものの、起業した後に打ち出そうと考えているプロダクトが適法なものなのかどうか、類似のプロダクトが既に特許権等を取得しているのではないかなど、二の足を踏んでしまうような悩みが次から次へと出てきます。

ベンチャー・スタートアップ企業は、起業家一人の力で成功を成し遂げることは難しく、創業メンバーや途中からジョインしたメンバー、投資家、ベンチャーキャピタル(VC)、業務提携先など、多くの人と手をつないで成功を目指すものになります。

特に、単なる中小企業にとどまらないスタートアップ企業の場合には、インキュベーターやアクセラレーターの力を借りながら、極めて短期間で事業をスケールさせることを目的とするものになります。

そんな中、専門知識が必要な法律分野、税務分野、会計分野などについて、専門家の力を借りることなくいちいち調べ物をして各種の問題に対応していくとなると、スタートアップがスタートアップである意義を失う事態を招くことになります。

本稿では、ベンチャー・スタートアップ企業がどうして法務を必要とするのか、また、ベンチャー・スタートアップ法務の専門家を利用する場面はどのようなものがあるのかについて解説いたします。

ベンチャー法務総論

当事務所でも、「これから●●というビジネスを開始しようと思うが、法律上どのような手続が必要なのかわからない。」や「●●というプロダクトを制作したが、これをリリースしても法律に触れないのか不安である。」といったような相談を数多く受けております。

よーいどんで走り出したものの、後々行政当局に規制の対象であるとして摘発されるリスクは当然あり、仮にその事実が公表されるなどすれば、せっかく野心を持って起業したにもかかわらず、それ以降の再起に大きなハードルが課せられることとなってしまいます。

そこで、まずは総論として、ベンチャー企業が外部の法律専門家(弁護士等)の助力を求めなければならない理由を説明します。

⑴ プロダクトの新規性

ベンチャー企業が生み出すプロダクトは、それがハードウェアかソフトウェアかはたまたサービスであるかを問わず、世間では未だ認知を得ていないようなまったく新しい、新規性に溢れたものであることがほとんどです。

特に、現在はデジタルネイティブやWeb3.0、Z世代、DXなど、昭和、平成とはまるで異なる新時代の到来を予感させるような新しい言葉が様々飛び交っています。

そして、新規性の高いプロダクトは、当然未だ他社において公開されているものである可能性は低く、「どこどこの会社もやっているから大丈夫だろう。」などという安直な判断や比較が難しいものになります。

そうすると、そのプロダクトが何らかの法規制に抵触しないか、許認可や届出を要するものなのではないかという問いが生まれることとなりますが、専門家でなければなかなか答えにたどり着くことは難しい問題となるでしょう。

⑵ 法務部員がいないこと

組織体制が確立しており、人件費も潤沢な大企業に比べ、ベンチャー企業の場合には法務部を自社で備えていないことがほとんどであり、その人材コストの高さから、法律に精通した人材を確保しているということも極めて稀といえます。

そうすると、契約書審査ひとつをとっても、法的な観点からどのように分析すればいいのかという勝手がわからず、なんとなくの相場観や、自信満々な先方の態度や口約束を重視して、自社に不利な契約を締結させられてしまうことがままあります。

また、著作権や商標権、特許権などの会社の命ともいえる部分についてしっかりとチェックできないために、ビジネスがある程度進んだ段階で、いわゆる「詰み」の状態になることもあります。

これらのことから、外部の専門家として弁護士と顧問契約を締結する等により、内部に人材を確保するよりは低廉なコストで、法務部員の代替先を用意しておくべき、ということになります。

⑶ 会社の評判(レピュテーション)が将来を決めかねないこと

ベンチャー企業はキャッチーな社名に明るい企業理念を構え、社名を聞いた人あるいは見た人をして、「どんな会社か気になるな。」という感想を抱かせることが多いため、必然的に会社のホームページ(コーポレートサイト)をインターネットで検索して探してみようという流れになることが多いです。

その際、Google口コミやSNSなどでもし会社の悪評が出てくるようだと、せっかく自社のことを検索してくれたのに、見てくれた人に対して猜疑心を抱かせる結果となってしまいます。

特に、ベンチャー企業は自社の情報や広告をどこにでも流通させることはコストパフォーマンスや対応する人材の確保という観点から難しく、また、⑴で述べたようなプロダクトの新規性から、会社そのものに疑いの目を向けてくる人が一定数想定されます。

そんな中、悪評が目についてしまうと、それを見た人に「やっぱり怪しい会社だったんだな。」という感想を抱かせてしまうことになり、レピュテーションの観点から致命傷を負う可能性があります。

このような事態を未然に防ぐためには、悪評の原因を法的な観点から分析し、自社若しくはプロダクトが適法かつクリーンなものであることを、根拠をもって示しておく必要があります。

また、そうであるにもかかわらず事実無根の悪評がインターネット上に記載されてしまった場合などは、インターネット上の風評被害対策に明るい弁護士が対応することも必要といえるでしょう。

⑷ 事後的に会社の適法性審査がなされる可能性があること

会社がIPO(株式上場)M&A(会社売却等)によるEXITを目的とする場合には、IPOの場合には主幹事証券会社による引受審査、M&Aの場合には買い手によるデュー・デリジェンスが行われることになります。

どちらの場合でも、業界や法律に精通した専門家の手によって、契約書、会計帳簿などの各種の書類を元に、対象の会社自体あるいはビジネスの適法性が極めて厳しくチェックされることになります。

せっかく数年頑張って会社を大きくしてきたのに、会社の黎明期からの法的な問題点が初めてその時点で明らかになり、IPOやEXITが見送りとされてしまうことは、会社自体や起業家、ひいては社会にとっても大きな損失となってしまいます。

このような事態を引き起こしてしまわないためにも、起業した後に伴走してくれる専門家の存在は必要不可欠といえるでしょう。

ベンチャー企業における弁護士の役割

では、具体的にはどのような場面でベンチャー企業、ベンチャー法務について弁護士の活躍が望まれるでしょうか。
無論、会社の資金が無限にあるのであれば、起業当初からEXITまで弁護士に依頼を続けることがベストだとは思われますが、例えば顧問契約を締結したうえで日々相談を行うようにするべき段階はどこなのか、という観点からも考えてみたいと思います。

⑴ シードステージ

シードステージとは、「シード(Seed)」という英語のとおり、会社にとってまだ種の段階をいいます。シードステージに限らず、ベンチャー企業のステージ、シリーズについては定義が明確ではなく、人によっては異なる捉え方をしている場合もありますが、ここでは【起業家の思い付き】から【起業】までをシードステージを呼ぶこととします。

このシードステージでは、まだ企業として活動していることは基本的にはなく、プロダクトの設計、プロトタイププロダクトの試運転、起業家としてのネットワークの構築、人材の確保、PMFの測定などがメインの活動となります。

なにかをリリースするということは稀ですので、多くの人はこの段階で顧問弁護士を用意しよう、という考えにはならないでしょう。

当事務所としてもその考えは大いに理解できますが、ただ、シードステージでの投資家、ベンチャーキャピタルの受け入れには十分に注意してもらいたいと考えています。

シードステージではまだPMFの実証ができておらず、起業後にリリース予定のプロダクトの価値が不透明であることから、投資家やベンチャーキャピタルによる資金調達が困難であるとされています。

しかしながら、起業家や創業メンバーに魅力を感じたとか、プロダクトの将来性を高く評価してもらえたとかの理由で、エンジェル投資家やシード向けのベンチャーキャピタルから出資を受けられることもあります。そして、目の前の多額の資金と投資家の情熱に押され、当該投資家に会社設立後に多数の株式を割り当てることを約束してしまい、そのまま実行してしまうということがあります。

そうなると、会社として機動力を失い、また後日その株式割合を是正することは事実上不可能となることから、進退窮まれりという状況に立たされてしまうことがありますので、この点には十分に注意する必要があります

ベンチャー企業向けの無料法律相談も多数ありますし、資金調達や会社の設計、株式の設計などについては、もしトータルで数千円から数万円程度の法律相談料がかかるとしても、弁護士に相談くらいはしてみてもいいと思われます。

⑵ アーリーステージ

シードステージから進み、実際に会社定款を用意し、公証人の認証も得たうえで、法務局にて会社設立の登記を行えば、アーリーステージとなります。

アーリーステージでは、まだ会社としての実績もない状態ですので、まずは会社の方向性を定め、ビジネスモデルを確固たるものにしていくことが目標とされます。

この段階では、プロトタイプからブラッシュアップしたプロダクトをリリースし、企業とプロダクトの認知度を高めるとともに、会社を回転させるための資金調達に奔走することになります。

プロダクト自体のクオリティを上げることにも時間と頭のキャパシティを割くことが求められるうえ、資金調達や経営者間でのネットワークの構築のために、各種プレゼン資料の作成やプレゼンテーション技術の向上、細かな事務作業にも時間を割かなければならなくなり、かなり疲弊するステージであると言われています。

創業直後ということもあり、みるみる減っていく運転資金を見ながら、無事に次のステージへステップアップできるか不安が募る段階でもあります。

一般的にアーリーステージは赤字経営が続いている状態となりますので、この段階で弁護士になにかを依頼することは躊躇われます。しかし、一定数のベンチャー企業がこの段階でどこか特定の法律事務所あるいは弁護士と関係をもち、定期的に法律相談やドキュメント作成を依頼することが出てきます

それは、自社プロダクトの顧客がいくらかつきそうだということで、取引基本契約書の作成を依頼してみたり、あるいは投資家が見つかったということで資金調達のサポートを依頼してみたりと、いかにもベンチャー企業らしい法務が生じてくる段階だからではないかと考えられます。

資金に余裕があるのであれば、顧問契約を締結するなどして、この段階からどこかの弁護士と懇意にしておくことを検討していいと思われます。

⑶ ミドルステージ

ミドルステージは、波乱万丈のアーリーステージを乗り越え、ビジネスが軌道に乗り始め、安定した収益とスケールアップを見込むことができる段階です。

アーリーステージから徐々に人員を増やし、この段階では会社の人員が2桁に乗ってくる頃合いとなりますことから、人事労務の観点も重要になってきます。時に、ストックオプション制度を採用していた場合には、シードステージやアーリーステージのように、気軽にぽんぽんとストックオプションを発行していいものか、一度立ち止まって考えてもいい段階です

顧客が安定的に増加することから、BtoC取引では紛争やレピュテーション悪化の火種が見えることもあり、BtoB取引では契約に関する交渉事が生じることも増えてきます。

資金調達についても、アーリーステージよりは頻度が増え、株式の設計や投資契約、株主総会についても煩雑さが増加することは間違いなく、この段階であれば絶対に弁護士の助力が必要となります。

⑷ レイターステージ

レイターステージは、IPOを目指すのか、それともM&Aを目指すのかによって会社の行動は変わり得ます。IPOであれば主幹事会社を選定し、M&Aであれば買い手となり得る企業を探します。

どちらの選択肢であっても極めて多くの専門的な業務が発生することから、専門家に依頼をしておかなければ、そもそも日常業務を行うことすら困難となる段階です。

このステージで顧問弁護士をつけていないという企業は稀であり、極めて専門性の高い外部業務が増えることから、ベンチャー企業に精通した弁護士に依頼をすることは必至となります。

もしすぐにIPOやEXITを検討せず、ユニコーン企業となる可能性を見るとしても、大型の契約や紛争事案も発生する段階であることから、どちらにしても弁護士のサポートは必要になります。

ベンチャー企業と弁護士費用

これまで述べましたとおり、シードステージではまだ顧問弁護士のようなところまでは必要なく、アーリーステージに入ってから自社のビジネスのスタイルやエクイティ(株式発行)による資金調達の可能性等によって顧問弁護士をつけるかを検討し、遅くともミドルステージのうちには顧問弁護士をつけておいたほうがいいということになります。

特に、エクイティによる資金調達を行う場合、基本的に失敗は取り返しのつかないものとなりますので、当事務所としては最初の資金調達の段階で弁護士に相談することを始めることをお勧めします。

とはいえ、何事も先立つものが必要となるのが世の常であり、資金に不安のあるベンチャー企業としてはあまり多額のお金を専門家に投じることに乗り気にならないこともよくわかります。

当事務所をはじめとして、世の中にはベンチャー企業を主たるクライアントとする法律事務所が多々存在し、所属する弁護士の人となりも多種多様であると同時に、料金体系も多種多様です。

ベンチャー企業を主たるクライアントとしている法律事務所の場合には、一般的な企業が顧問料月額5万5000円程度のところ、何らかの条件を付すことにより、サービスの内容は他の企業と同様でありながら、月額の顧問料を割り引いてくれるということが多いです。

例えば、設立年数×1万1000円を月額顧問料とするですとか(上限はもちろん設けられます)、月額5500円の顧問料だが法律相談はLINEで行う限りは回数無制限ですとか…。

ここは事務所によって色の違いが出るものであり、顧問料が高いからサービスがいい、安いからサービスが悪い、という関係には必ずしもなりません。ベンチャー企業にとってのサービスのいい悪いというのも、視点が異なれば評価軸も異なりますため、いくつかの法律事務所に相談のうえ、見繕ってみるのがいいでしょう。

最後に

ベンチャー企業とベンチャー・スタートアップ法務の関係について、簡単にですが紹介させていただきました。

当事務所では、シードステージ、アーリーステージ、ミドルステージ、レイターステージを問わず、多くのベンチャー企業を顧問先としており、日々数多くの相談をいただいております。

ベンチャー企業からの法律相談は初回無料となりますので、当事務所にお尋ねになりたいこと等ございましたら、いつでもご遠慮なくお問い合わせください。

この記事を書いた人

藤本 大和

ベンチャー企業を中心に、ビジネス適法性審査やスタートアップファイナンス、バイアウトなどについての深い知見を有する。IT関連企業や広告代理店などをクライアントとして擁しており、最新のビジネス情報や法改正についても日々研究を重ねている。

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